
目次
特定技能からの転職はできる?制度の基本と最新事情
日本で働く外国人の数が増加するなか、「特定技能」で就労している方々の間でも転職を希望する声が高まっています。しかし、特定技能の制度は他の在留資格とは異なるルールで運用されており、安易な転職が不利益を招くリスクも含んでいます。
本章では、特定技能で働く外国人が転職を検討する際に知っておくべき制度の基本や、技能実習との違い、そして2025年現在の最新の制度改正情報まで、実務に役立つ視点でわかりやすく解説します。正しい知識をもとに転職を進めることが、本人だけでなく受け入れ企業にとっても重要なリスク管理の第一歩となります。
■外国人が特定技能で転職を検討する前に知っておくべき制度の仕組み
特定技能制度の下で働く外国人にとって、転職は許可された行為ではあるものの、自由に行えるわけではありません。この制度は、人手不足が深刻な16の特定産業分野において、一定の専門性や技能を持つ外国人労働者を受け入れることを目的に設計されています。そのため、転職を希望する場合も、新しい就業先が対象分野に該当し、かつ在留資格の要件を満たしている必要があります。
また、転職に伴って支援計画の再提出や登録支援機関の変更手続きなど、複数の法的義務が発生します。これらの条件を満たさなければ、転職は許可されず、場合によっては不法就労とみなされるおそれもあります。制度上の「転職可能」と実際に許可されるまでのプロセスにはギャップがあるため、申請にあたっては慎重な準備と専門的な確認が欠かせません。
■技能実習と特定技能の違いが転職の自由度に与える影響とは
技能実習と特定技能は、どちらも外国人が日本で働くための制度ですが、その目的と転職に関する自由度には大きな違いがあります。技能実習制度は本来「技能の習得」を目的としており、実習先の企業で継続して技能を学ぶことが前提となるため、原則として転職は認められていません。
一方で、特定技能制度は「即戦力人材としての労働力確保」を主眼に置いているため、条件付きではありますが転職が可能とされています。ただし、特定技能での転職も無制限ではなく、転職理由が制度上正当と判断される場合に限られます。具体的には、勤務先の倒産や契約終了、人権侵害といった明確な理由が必要です。
この違いを正しく理解しておかないと、自身の在留資格に合わない行動を取ってしまうリスクがあります。両制度の本質的な目的と運用ルールを把握することは、転職の成否を大きく左右する要因になります。
■2025年最新情報:特定技能制度の見直しと転職に関する変更点
2025年に入り、特定技能制度には複数の見直しが進められており、転職に関するルールにも変化の兆しが見られます。特に注目されているのは、特定技能1号の在留期間の延長議論や、分野横断的な転職の検討です。
これまで、特定技能1号は原則5年以内の在留が上限とされていましたが、制度の柔軟化により、分野によってはより長期間の就労が可能になる方向で調整が進んでいます。また、転職に伴う支援機関の変更についても、手続きの簡素化や電子申請化が導入される見込みです。こうした見直しは、外国人労働者のキャリアの継続性を高めるとともに、企業側の受け入れ負担を軽減することを目的としています。
制度は今後も柔軟に調整されていく可能性が高いため、常に最新のガイドラインをチェックし、変更点に対応できる体制を整えることが、今後の転職成功の鍵となります。
転職が認められるケース・制限されるケースの見極め方
特定技能で働く外国人が転職を希望する場合、すべてのケースで自由に職場を変えられるわけではありません。制度上は転職が可能とされていても、実際には細かい条件や制限が存在し、それを正しく把握していなければ、思わぬ不許可や資格外活動と見なされるリスクもあります。
特に「どのような理由なら転職が認められるのか」「必要な事前手続きは何か」「不許可となるのはどんな場合か」といったポイントを理解しておくことは、外国人本人だけでなく、受け入れる企業にとっても重要です。
この章では、制度の実務に即した転職可能な条件や注意すべき落とし穴について詳しく解説していきます。
■在留外国人が特定技能で転職できる条件とは?(事業所の廃止など)
特定技能での転職は、すべての理由で許可されるわけではありません。最も代表的な転職可能なケースは、勤務先の事業所が廃止された場合や、解雇や契約期間の満了によって就業継続が不可能になった場合です。
また、企業側のハラスメントや労働環境の悪化によって就労が困難と判断される場合にも、転職が認められることがあります。ただし、本人の都合による転職、たとえば「別の会社の方が給料が高い」などの理由では、原則として認められません。
特定技能制度は、あくまで特定の分野で人材不足を補うことを目的とした制度であり、無制限な労働移動は前提とされていないからです。転職を希望する場合は、まず正当な理由に該当するかどうかを確認し、それに基づいた事実関係を文書などで証明できるよう準備することが求められます。
■転職前に必須となる在留資格と支援計画の正しい整備方法
特定技能の外国人が転職を行う際には、単に新しい会社に採用されれば良いというわけではなく、法的に必要な手続きを事前に正しく整えておく必要があります。その中心となるのが「在留資格の変更手続き」と「支援計画の策定・届け出」です。
新しい雇用先が特定技能の受入れ要件を満たしていない場合や、適切な支援体制が整っていない場合には、入管によって許可が下りないケースもあります。また、支援計画は登録支援機関が継続して対応する必要があり、転職によってその支援機関が変更になる際は、速やかに届出が行われなければなりません。受け入れ企業と登録支援機関、外国人本人の三者が連携して計画を進める必要があり、事前の準備不足は不許可や在留資格の更新拒否といった重大なリスクを招きます。
制度の詳細を確認しながら、入国管理局や行政書士など専門家の助言を得て、適切に進めることが不可欠です。
■転職申請が不許可になる理由と外国人本人・企業ができる予防策
特定技能での転職申請が不許可となるケースは、主に「手続きの不備」「書類の内容不一致」「受け入れ先の不適格」が原因となります。
たとえば、新しい雇用先が特定技能の対象分野でなかったり、過去に支援義務違反などの指導歴がある場合は、不許可となる可能性が高まります。また、本人が転職理由を正確に説明できなかったり、前職の退職手続きが完了していない状態で申請を進めた場合も、審査の過程で疑義が生じます。企業側の支援体制が不透明な場合も、申請全体の信頼性が損なわれる原因になります。
こうしたリスクを避けるためには、転職を検討する段階から必要書類のチェックリストを作成し、行政機関や専門家に事前相談することが有効です。また、在留カードや支援計画に関する最新のガイドラインに基づいた対応を心がけることで、審査をスムーズに通過しやすくなります。
外国人本人が行う転職時の手続きと注意点
特定技能で働く外国人が転職を行う際には、企業側だけでなく本人にも数多くの法的手続きが求められます。退職から新たな雇用先との契約、そして在留資格関連の変更まで、一連の流れを正しく理解しておかないと、就労中断や在留資格の失効といった大きなトラブルに発展するリスクがあります。特に、支援計画の不備や在留カード更新の遅延は見落とされやすく、慎重な確認が必要です。
この章では、外国人本人が実際に行うべき転職時のステップと、制度上の注意点を実務ベースでわかりやすく解説します。
■特定技能の転職で必要な退職届・所属機関変更の提出ステップ
特定技能で働いている外国人が転職を行う際は、まず現在の雇用先に退職届を提出する必要があります。この際、口頭での申し出ではなく、文書での提出が推奨されます。退職が成立したら、速やかに「所属機関等に関する届出(退職)」を出入国在留管理庁に提出する必要があります。この手続きは14日以内と定められており、遅延すると在留管理上のペナルティの対象となるおそれがあります。
続いて、新たな勤務先が決まった場合には、「所属機関等に関する届出(転職先)」を提出し、在留カードに記載された所属情報を更新する必要があります。
この2つの届出を怠ると、法的に就労状態が不明確とされ、不法就労と見なされる可能性もあります。各提出はオンラインまたは郵送で可能ですが、正確な情報の記載と証明書類の添付が求められます。適切な手続きを取ることが、次の職場で安心して働くための第一歩です。
■新しい就職先との雇用契約書と支援計画はどう整える?
転職後の勤務を開始するには、新たな雇用主との間で正式な雇用契約書を取り交わす必要があります。契約書には就業条件や給与、業務内容だけでなく、特定技能に関わる法的要件が正確に盛り込まれていることが求められます。
また、受入企業は外国人労働者の就労を支援する「支援計画」を作成し、登録支援機関と連携してその実行体制を整える必要があります。この支援計画には、生活支援、職業指導、日本語学習機会の提供などが含まれており、不備があると入管から許可が下りない可能性もあります。
特に転職の場合、前の支援計画と新しい計画の一貫性や引き継ぎ状況が重視されるため、計画書は丁寧に作り込む必要があります。支援計画が整っていないまま申請すると、審査に時間がかかったり、再提出を求められることがあるため、行政書士などの専門家に確認してもらうことが安心です。
■在留カードと資格外活動許可の手続き上の落とし穴と対策
転職に際して見落とされがちなのが、在留カードの情報更新と資格外活動許可の取り扱いです。まず、転職によって所属機関が変わる場合、在留カードに記載された情報も変更が必要になります。これを怠ると、在留管理上「情報不一致」と判断され、在留資格の更新が不許可となることがあります。
また、在留カードの有効期限にも注意が必要で、期限切れを過ぎた状態で手続きをすると、不法滞在と見なされるリスクがあります。さらに、転職の間にアルバイトなどで収入を得る場合は、事前に「資格外活動許可」を取得しなければなりません。無許可で就労を行うと、厳しい行政処分の対象になります。
こうしたリスクを避けるには、転職が決まった段階で全体のスケジュールを整理し、在留カードの変更届や資格外活動許可の申請タイミングを計画的に進めることが重要です。不明点がある場合は、入管や専門機関への相談を早めに行うことが安全策です。
転職を受け入れる企業側が果たすべき義務とリスク管理

特定技能外国人を新たに受け入れる企業には、単なる雇用契約の締結だけでなく、制度上求められる数多くの手続きと支援義務が課されています。とくに、転職によって外国人を雇用する場合、すでに在留資格を有するとはいえ、改めて受入要件の適合性や支援体制の整備が必要となります。企業がこれらを怠った場合、罰則や助成金の停止といった重大なリスクを抱えることになります。
この章では、企業が確実に守るべき法的手続きや、登録支援機関との連携方法、そして不適切な対応によって生じるトラブルへの備えについて、具体的に解説していきます。
■特定技能外国人を採用する企業が守るべき手続き・受入要件
特定技能外国人を転職によって受け入れる企業は、受入機関としての要件を満たしていることが前提です。たとえば、過去に出入国管理法違反歴がないことや、労働基準法を順守していること、適切な支援体制を整備していることが求められます。
また、雇用契約の内容が特定技能制度の要件に沿っているかも審査対象となります。加えて、採用前には「受入れに係る届出」や「支援計画の提出」といった複数の法的手続きを経る必要があり、これらを怠ると在留資格変更が許可されません。企業が独自に手続きを進めることも可能ですが、登録支援機関との連携や行政書士の活用によって、法的リスクを最小化するケースが多く見られます。
適切な準備と計画をもって対応すれば、特定技能人材の受け入れは企業の成長に大きな価値をもたらします。
■登録支援機関の変更手続きとその実務上のトラブル対策
特定技能外国人の転職に伴って、登録支援機関が変更されるケースは少なくありません。転職前の支援機関がそのまま継続することもありますが、企業が新たに支援機関と契約を結ぶ場合には、変更届の提出と新たな支援計画の作成が必須となります。この際、書類の不備や提出漏れによって入管の審査が遅れることが多く、就労開始時期が後ろ倒しになるリスクも存在します。
さらに、旧支援機関との連携が取れず、支援内容の引き継ぎが不十分なまま申請されると、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。実務上は、事前に支援計画を共有・整合させること、旧支援機関との連絡を怠らないこと、そして可能であれば行政書士などの第三者を介して調整を図ることが望ましいです。
トラブルを未然に防ぐためにも、企業は制度上の流れと求められる対応を正確に把握しておく必要があります。
■不法就労・支援放棄による罰則や助成金カットのリスクとは
企業が特定技能外国人の受け入れにあたって手続きを怠ったり、義務を果たさなかった場合、思わぬ法的リスクに直面することになります。たとえば、在留資格が正式に変更されていない状態で就労を開始させた場合、それは「不法就労助長罪」に問われる可能性があり、企業には刑事罰や行政指導が科されることもあります。
また、登録支援機関と連携せずに支援業務を放棄した場合は、監督官庁からの是正命令や、再受入れの停止措置を受けることもあります。さらに、外国人雇用に関連する各種助成金の支給停止や返還を求められるリスクもあり、制度違反は企業の信用失墜に直結します。これらを防ぐためには、受入れ段階から制度に則った運用を徹底し、記録や届出の整備を怠らないことが求められます。
万が一トラブルが発生した場合も、速やかに対応できる体制を整えておくことが、企業のリスク管理として極めて重要です。
特定技能外国人の転職支援に使える制度・相談先まとめ
特定技能で働く外国人が転職を検討する際、自分一人で全てを調べて手続きを進めるのは困難です。とくに言語や法制度の壁がある中では、制度を正確に理解し、スムーズに転職を実現するための支援体制が不可欠です。実は、日本には公的機関や登録支援機関、さらには民間団体による支援サービスなど、さまざまな転職サポートの窓口が存在しています。
この章では、特定技能外国人が安心して転職できるように活用できる制度や相談先について、実際の使い方や注意点も含めて詳しく解説します。
■ハローワークや入管による外国人転職者向けの公式サポート窓口
日本全国のハローワークでは、外国人の転職支援にも対応しており、特定技能で働く方に向けた専門的な相談窓口も設置されています。職業紹介だけでなく、求人票の見方、労働条件の確認方法、面接時の注意点なども含めて、きめ細かな支援が受けられます。
また、地域によっては外国語対応スタッフが常駐しているため、母国語での相談が可能な場合もあります。加えて、出入国在留管理庁も、在留資格の変更や支援計画の提出に関する窓口を設けており、制度上の不明点や申請方法について相談することができます。どちらの機関も公的な情報に基づいた対応をしてくれるため、インターネット上の不確かな情報よりも信頼性が高く、安心して活用できます。転職に不安を抱える特定技能外国人にとって、まず足を運ぶべき窓口です。
■登録支援機関や民間サービスによるマッチング・職業紹介の実態
登録支援機関は、特定技能外国人が日本で安定して働けるよう、生活支援や転職支援を行う公認の団体です。特に転職時には、新しい職場の紹介や支援計画の再構築、行政手続きのサポートなどを担う重要な存在となります。多くの支援機関は、企業と連携した求人情報を保有しており、分野に特化したマッチングが可能です。
一方で、民間の職業紹介サービスも年々充実しており、外国人に特化した転職サイトやエージェントが、日本語サポート付きで求人紹介を行っています。ただし、登録支援機関と異なり、民間サービスは法的義務を負っていないため、契約内容や手数料、支援範囲に違いがある点には注意が必要です。利用する際は、実績や口コミをよく確認し、必要に応じて複数の機関を比較することが大切です。適切な支援先を見つけることで、よりスムーズかつ安全な転職が実現します。
■外国人が無料で使える法律・労務トラブル相談の活用方法
転職に際して労働条件の不備や雇用契約のトラブルに直面することは珍しくありません。そうしたときに頼りになるのが、各自治体や法務省などが提供している無料相談窓口です。たとえば、「外国人労働者相談コーナー」や「法テラス(日本司法支援センター)」では、日本語が不自由な外国人でも利用できる多言語対応の法律相談を実施しており、就業中の問題や退職に関するトラブルにも対応しています。
また、労働基準監督署や地方自治体の相談窓口では、賃金未払い、残業の強制、解雇通告などの労働問題についても対応可能です。特定技能で働く外国人は、こうした支援を積極的に活用することで、自分の権利を守ると同時に、制度に適合した正当な転職を進めることができます。相談は無料で、匿名でも可能な場合が多いため、少しでも不安を感じたら早めのアクションが重要です。