
深刻な人手不足に直面する今、外国人採用は企業の持続的成長に欠かせない経営戦略へと変化しています。特に即戦力となる特定技能外国人の受け入れは注目されていますが、「制度が複雑で法律違反のリスクは?」「義務的支援にどれだけの工数がかかるのか?」「高額な紹介料に見合う費用対効果は得られるのか?」といった不安から、一歩踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、特定技能制度に特化し、その具体的なメリット・デメリットを徹底的に解説します。さらに、2027年に施行される育成就労制度の最新動向にも触れ、外国人採用の不安を解消し、企業の事業成長を加速させるための羅針盤としてご活用ください。
目次
外国人採用が今、企業に「必須」である理由
■深刻化する日本の労働力不足と外国人材の重要性
日本は、少子高齢化の進行により深刻な労働力不足に直面しています。日本の労働力人口は2003年から2023年の20年間で173万人減少し、平均年齢は約49歳と世界で2番目の高齢化が進んでいます。この状況は、特に製造業、介護、外食産業といった分野で人材不足を一層深刻化させています。
日本人労働者だけでは事業の持続可能性を確保することが難しくなっており、外国人材の受け入れは企業にとって「選択肢」ではなく「必須の経営戦略」へと変化しています。実際、外国人労働者数は増加傾向にあり、令和6年10月末時点で約230万人と、届出義務化以降で過去最高を記録しています(出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況)。
■特定技能制度が「即戦力」として期待される理由
外国人材を受け入れるための様々な在留資格の中でも、特定技能制度は人手不足が深刻な特定産業分野において、即戦力となる熟練労働者の受け入れを目的とした制度です。
特定技能の在留資格を取得するためには、「相当程度の知識または経験」が求められ、関連する技能試験の合格が義務付けられています。これにより、企業は一定以上の技術力や専門知識を持った人材を確保することが期待できます。
従来の技能実習制度が国際貢献を主目的としていたのに対し、特定技能制度は企業が求める即戦力性を制度設計の段階から担保している点が大きな違いです。労働力不足が解消されることで、日本人労働者がより高度な業務に集中できるようになり、結果として企業全体の生産性向上にもつながるでしょう。
【特定技能に特化】外国人採用の9つのメリットを徹底解説
特定技能外国人を採用することには、単なる人手不足の解消に留まらない、多くのメリットがあります。ここでは、特に企業が注目すべき9つのメリットを解説します。
■深刻な人手不足の解消と即戦力人材の確保
特定技能外国人は、技能試験に合格した熟練労働者であるため、即戦力として期待できます。特に熟練労働力が不足している業種にとっては、貴重な人材源となるでしょう。また、特定技能制度を活用することで、若手人材の確保にもつながり、組織の活性化に貢献する可能性があります。
■日本語能力の保証による円滑なコミュニケーション
特定技能1号の在留資格を取得するためには、日常会話レベルの日本語能力(日本語能力試験N4相当)が要件とされています。この制度的な保証により、企業側は最低限の日本語能力を持った人材を確保でき、初期のコミュニケーションにおける課題を軽減できます。これにより、現場の担当者が懸念する日本語教育の初期負担が軽減され、即戦力化が加速します。
■グローバル化推進と新規事業機会の創出
外国人材の雇用は、社内のグローバル化を促進し、企業文化に新しい発想や価値観をもたらします。多言語を話せる人材を確保することは、訪日外国人(インバウンド)需要への対応力を高め、新たな利益をもたらす足がかりとなるでしょう。2023年9月時点で訪日外国人数は1,723万人を超えており、多言語対応の重要性は増しています。
■長期雇用と安定した人材基盤の構築
特定技能制度の大きな優位性は、長期的な雇用戦略を可能にすることにあります。特定技能外国人はフルタイムでの雇用が可能であり、技能実習を良好に終了した技能実習生を特定技能へ移行させることも円滑に進みます。
さらに、特定技能2号へ移行すれば、就労期間の制限がなくなり、人数制限も設けられていません。これは経営層が求める中長期的な人材基盤の安定化に直結し、安定した事業運営に貢献する重要な要素となります。
特定技能2号制度の詳細は
こちら
■その他のメリット:助成金活用と離職リスクの低減
外国人材の採用においては、キャリアアップ助成金(非正規雇用から正社員雇用への転換)や人材確保等支援助成金(正規社員として外国人を雇用し、雇用管理改善に取り組んだ場合)など、活用できる助成金制度が存在します。これらを活用することで、採用・育成コストの最適化につながります。
また、質の高い人材を確保し、適切な定着支援を行うことで、結果的に離職リスクを低減し、安定した労働力を確保できる可能性も高まります。
外国人雇用で活用できる助成金の詳細は
こちら
【見落とし厳禁】外国人採用(特定技能)で企業が直面する9つのデメリット
外国人採用を成功させるためには、メリットだけでなく、企業が直面する具体的なデメリットとリスクを正確に把握し、その対策を講じることが不可欠です。
■義務的支援の負担と制度の複雑さ
特定技能制度の採用における最大の障壁の一つは、雇用ルールの複雑さと、受け入れ後の管理負担です。特に特定技能制度特有の「義務的支援」は、受け入れ企業にとって大きな工数負担となります。これには、住居の確保支援、日本語学習の機会提供、生活オリエンテーション、苦情・相談への対応などが含まれ、法定された支援計画を策定・実施しなければなりません。
また、在留資格の申請・管理や各種届出、運用要領の把握など、法的手続きは多岐にわたり複雑です。雇用ルールを怠り、在留資格に違反する行為を行ってしまうと、企業が罰せられる可能性もあり、コンプライアンスリスクも高まります。社内に専門知識を持つ人材がいない場合、この管理負担は人事担当者にとって深刻な課題となるでしょう。
■文化・言語の壁と現場でのコミュニケーション課題
外国人労働者を受け入れる際の普遍的な課題は、言語や文化の違いから生じるコミュニケーションにおける問題です。日本語能力が一定レベルに達していても、文化や生活習慣、価値観の違いによる誤解や摩擦が発生することがあります。
特に日本の職場文化では、雰囲気を察する、見て学ぶといった暗黙知的な行動が求められがちですが、外国人労働者は具体的な指示や言葉にされたことを素直に行動に移す傾向が強いです。このため、採用側は「日本人なら当たり前」という常識を外して、具体的な理由や指示を言葉で丁寧に説明する意識が不可欠となります。現場の担当者は、教育負担を軽減するために、採用前の文化研修や、現場での指導方法のガイドラインを求めることが多いでしょう。
■高額な初期費用と高い転職リスク
外国人労働者の受け入れには、在留資格の管理や手続きの労力に加えて、費用が発生します。特に人材紹介会社を利用した場合、高額な紹介料という初期費用が発生し、経営層にとって初期投資の回収リスクとなります。
さらに、特定技能制度は技能実習制度とは異なり、外国人本人の意思による転職が比較的容易であるため、企業側には高い離職リスクが伴います。高額な初期費用を投じたにもかかわらず、早期に転職されてしまうリスクは、経営戦略上の大きな不確実性となるため、企業は採用クオリティを高め、手厚い定着支援を行うことで、この転職リスクを相殺しなければなりません。
■その他のデメリット:人材確保難と就労期間制限
特定技能人材の需要が高まる中、優秀な人材の獲得競争は激化しています。これは企業にとって、採用コストの増加や採用活動の長期化につながる可能性があります。
また、特定技能1号の就労期間は最大5年という制限があります。この期間を超えて雇用を継続するためには、特定技能2号への移行手続きが必要となり、これに伴う更新・移行手続きの労力が発生します。加えて、日本人労働者と同等以上の報酬を支払う「同等報酬義務」も法令で定められており、これも考慮すべき点です。
2027年施行「育成就労制度」でどう変わる?特定技能採用の未来
コンテンツの権威性を高めるため、現在進行中の法改正、特に技能実習制度の廃止と特定技能制度の再編に不可欠な「育成就労制度」について、最新情報をお伝えします。
■技能実習制度の廃止と育成就労制度の概要
2025年9月26日の政府閣議において、育成就労制度の施行日が2027年4月1日に決定しました。これに伴い、1993年に創設された技能実習制度は廃止されます。
育成就労制度は、外国人材がより高い転職の柔軟性を持つようになることを目的としており、従来の技能実習制度とは大きく異なる特徴を持っています。この情報は、企業が中長期的な採用戦略を練る上で決定的な重要性を持つでしょう。
■特定技能制度への影響と企業が今すべきこと
育成就労制度が施行されることで、外国人材はより高い転職の柔軟性を持つようになり、優秀な人材の獲得競争は激化することが予測されます。企業は、単純な労働条件の提示だけでなく、受け入れ後の生活支援や職場の環境、そしてキャリアパス(特定技能2号への移行を含む)といった要素を通じて、外国人材に「選ばれる企業」となる必要性が高まります。
特定技能制度自体も、育成就労制度の施行に合わせて運用改善が進められています。例えば、定期届出の提出書類が1年に1回に変更されるなど、運用要領の改正点も生まれており、この最新情報を把握していることが、企業のコンプライアンス維持に直結します。
外国人採用の「メリット・デメリット」を理解し、成功へ導くために
本記事では、特定技能制度を活用した外国人採用における具体的なメリットと、企業が直面しがちなデメリットを詳しく解説しました。深刻な人手不足の解消や即戦力人材の確保、日本語能力の保証、グローバル化の推進、長期雇用といった多岐にわたるメリットがある一方で、義務的支援の負担、制度の複雑さ、文化・言語の壁、高額な初期費用、高い転職リスクといったデメリットも存在します。
しかし、これらのデメリットの多くは、専門的支援を受けることで大幅に軽減、あるいは解消することが可能です。最新の法改正(育成就労制度)にも対応し、コンプライアンスを維持しながら安心して外国人採用を進めることは、企業の事業成長にとって非常に価値のある投資となるでしょう。
執筆者:STAYWORKER事業部 / 益田 悠平
監修者情報:外国人採用コンサルタント / 堀込 仁志
株式会社USEN WORKINGの外国人採用コンサルタント。人材紹介・派遣の法人営業として多くの企業の採用課題に、そして飲食店経営者として現場のリアルに、長年向き合ってきた経験を持つ。採用のプロと経営者、双方の視点から生まれる具体的かつ実践的な提案を信条とし、2022年の入社以来、介護・外食分野を中心に数多くの企業の外国人採用を成功に導く。