
「登録支援機関に支払う費用は、結局いくらかかるのか?」「この費用は本当に必要なのか、高すぎるのではないか?」
特定技能外国人の採用を検討する企業の多くが、こうした費用に関する漠然とした不安や疑問を抱えています。制度が複雑で変化も多いため、適正な費用相場や、その費用がもたらす真の価値が見えにくいのが実情でしょう。
本記事では、特定技能制度における登録支援機関の費用の全体像を、初期費用から月額費用、さらには隠れたコストまで徹底的に解説します。公的データに基づいた最新の相場観を示し、費用を単なる「コスト」ではなく「事業成長への戦略的投資」として捉える視点を提供します。この記事を読めば、費用不安を解消し、自社にとって最適な登録支援機関を選定するための明確な基準が手に入ります。
目次
登録支援機関の費用はいくら?全体像と最新相場を徹底解説
特定技能外国人の採用を検討する企業にとって、登録支援機関(RSO)に支払う費用は、予算策定において最も重要な要素の一つです。このセクションでは、費用の全体像、内訳、そして具体的な相場について詳しく解説し、予算策定の基礎情報を提供します。
■登録支援機関(RSO)の役割と「費用」の本質
登録支援機関(RSO)は、特定技能1号の外国人材を雇用する「受入れ機関」(企業)に代わって、法令で義務付けられている10項目の義務的支援を提供する機関です。この制度的役割を理解することが、費用の価値を判断する上での前提となります。
RSOに支払う費用は、単なる「手続きの代行料」ではありません。その本質は、「法令遵守義務の履行代行費用」であり、「コンプライアンス保険」としての役割を担っています。特定技能制度は、外国人材の安定的な就労と生活を支援することを目的としており、この義務的支援を適切に実施できない場合、企業は入管法上の法令違反とみなされ、最悪の場合、外国人材の受入れ停止処分を受けるリスクに直面します。
義務的支援の項目には、入国前の事前ガイダンス、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、定期的な面談と行政機関への報告などが含まれます。これらの業務は広範囲に及び、初めて外国人材を採用する企業や、人事リソースが限られている企業にとって、内部で全てを完遂することは「膨大な取り組み」を要するのが現実です。この手間と法的リスクを外部に委託できる点こそが、RSO費用の核心的な価値を構成しています。
義務的支援10項目の詳細については、別記事
「登録支援機関とは?仕組み・選び方・費用・メリットを徹底解説!」をご覧ください。
■特定技能採用にかかる費用の全体像:初期費用と運用費用の二分論
特定技能人材の採用にかかる費用は、予算策定の観点から「初期費用(Initial Cost)」と「運用費用(Operational Cost)」の二つに大きく分類できます。このフレームワークで費用を捉えることが、長期的な視点でのコスト管理に不可欠です。
初期費用: 採用が決定してから、外国人材が入国・就労を開始するまでに一度だけ発生するコストです。
- 人材紹介料(RSOまたは紹介会社を経由した場合)
- 在留資格申請費用(行政書士等への委託料)
- 入国前後の初期導入支援にかかる費用
運用費用: 外国人材が就労を開始した後、定期的に(月額または年額で)発生するコストです。
- RSOへの月額支援委託費用(義務的支援の対価)
- 在留資格の期間更新時に発生する申請費用
これらの費用を明確に分けて理解することで、企業は単年度の採用コストだけでなく、長期的な人材定着と運営にかかる総コストを正確に把握することが可能になります。
■【採用形態別】初期費用の決定的な違いと相場
特定技能人材の採用においては、対象者が既に日本に在住しているか、あるいは海外に在住しているかによって、特に初期費用に大きな差異が生じます。
日本在住者を特定技能として採用する場合:
初期費用の総額は30万円から60万円程度のレンジに収まることが一般的です。
主な構成要素は、人材紹介料や在留資格変更申請費用となります。
海外在住者を特定技能として採用する場合:
初期費用の総額は27万円から最大で114万円程度と、大幅に高騰する可能性があります。
この費用の高騰は、RSOの支援委託費用自体の上昇によるものではなく、主に以下の二つの要因によります。
送り出し機関手数料: フィリピンやベトナムなど、二国間協定(MOC)を締結している一部の国からの採用の場合、労働者保護の観点から特定の送り出し機関の利用が求められ、この手数料が10万円から60万円/人の範囲で発生します。
渡航費用・住居準備費用: 入国時の渡航費用や、住居確保・準備にかかる費用も初期費用として計上されます。
したがって、企業が登録支援機関の費用を確認する際、RSOへの月額委託費のみに注目するのではなく、採用形態に起因する総初期コストを最初に把握することが、予算策定において極めて重要となります。
■月額支援委託費用の平均額と最新相場
特定技能人材1人あたりの月額支援委託費用の平均金額は28,386円であることが、出入国在留管理庁の調査(2022年9月末に在留する特定技能人材を対象)に基づき示されています。この数値は、企業がRSOを選定する際の客観的なベンチマークとして機能します。
さらに詳細な構成比分析によると、登録支援機関の71.8%が、月額支援委託費用を15,000円から30,000円程度の範囲内に設定していることが確認されています。出入国在留管理庁の公表資料に基づく月額支援委託費の構成比は以下の通りです。
5,000円以下: 0.9%
5,000円超~10,000円以下: 6.4%
10,000円超~15,000円以下: 9.5%
15,000円超~20,000円以下: 25.3%
20,000円超~25,000円以下: 26.2%
25,000円超~30,000円以下: 20.3%
30,000円超: 11.5%
ただし、この公的データは2022年9月末時点のものである点に注意が必要です。2025年現在、日本国内の物価高騰や人件費の上昇は継続しており、RSOが確保すべき専門人材(支援担当者や行政書士)のコストも増加しています。
したがって、現在の市場動向としては、質の高い包括的な支援サービスを提供するためには、平均値である28,386円を上回り、30,000円から35,000円程度の範囲が標準化しつつある傾向にあると考察されます。企業は、平均値だけでなく、提供される支援の質と最新の相場観を照らし合わせる必要があります。
■月額費用以外に発生する隠れた実費と申請費用
月額支援委託費用とは別に、初期費用に含まれる、またはオプションとして追加される可能性のある支援項目ごとの単価相場も把握しておくべきです。特定技能人材の採用において、支援項目別に費用が設定されている場合の相場(1回あたり)は以下の通りです。
これらの単価とは別に、企業が特に注意すべきなのは、契約書に明記されている「実費」の扱いです。例えば、出入国の際の送迎における交通費やレンタカー代、日本語教育・学習機会の提供における教材費などは、支援委託費用とは別に実費として請求される可能性があります。契約前の費用確認時には、これらの隠れた実費の発生有無や上限額を明確にしておくことが、予算オーバーを防ぐ上で必須となります。
特定技能の在留資格関連の手続きは、入管法に基づき作成が義務付けられている書類が多岐にわたり、極めて専門的です。新規の「在留資格認定証明書交付申請費用」や「在留資格変更許可申請費用」で10万円から20万円、定期的な「在留期間更新許可申請費用」で4万円から8万円が目安となります。多くの登録支援機関が行政書士と提携している背景には、申請手続きの確実性とスピードを確保したいという受入れ機関側の強いニーズがあります。
「コスト」か「投資」か?自社支援のリスクと費用換算
特定技能制度の費用構造を理解する上で、最も重要な戦略的視点は、「登録支援機関への支出を削減すべきコスト」と捉えるか、「事業継続と人材定着のための投資」と捉えるか、という点です。このセクションでは、自社支援(内製化)の誘惑と、それに伴う潜在的なリスクを費用として換算することで、RSOへの委託価値を明確にします。
■安易な自社支援(内製化)が招く「見えない間接コスト」
月額1.5万円から4万円程度の支援委託費用を節約したいという動機から、自社支援を検討する企業は少なくありません。しかし、この費用削減は、しばしば「見えない間接コスト」として企業内に跳ね返ります。
特定技能制度は2019年に始まったばかりであり、依然として「未完成な点」が多く、*「制度が毎年変わる」という特性を持っています。RSO費用を内製化した場合、人事担当者は、最新の情報を常にキャッチアップし、それに基づき外国人材への支援体制を構築しなければなりません。これは日常業務外の時間と専門知識獲得のための研修費用を要求し、担当者の残業増加、疲弊、そして最終的な機会損失につながります。
自社支援における間接コストを定量的に試算すると、年間で数十万円に達する可能性があり、多くの場合、RSOに支払う年間費用(15万円〜30万円)を優に超えます。RSO費用は、この複雑で変化の激しい法令・制度に関する情報キャッチアップとコンプライアンス維持の責務を、専門家に委ねるための対価であり、年間3万円から6万円程度の在留資格更新費用と合わせて、法務コンプライアンスの保険として機能するのです。
■法令違反による「受入れ停止」のリスクを費用換算する
RSOへの支援委託費用を削減対象とする最も危険な結果は、義務的支援の不履行や不適切な行政への届出による法令違反リスクの顕在化です。義務的支援が適切に提供されない場合、受入れ機関は入管庁から指導を受け、最終的には特定技能外国人材の受入れ停止処分を受ける可能性があります。
この「法的リスク」を費用換算すると、その損失はRSO費用を遥かに凌駕します。受入れ停止は、事業計画の停滞、外国人材の離職(結果として高額な再採用コストの発生)、そして社会的信用の失墜を招きます。これらの損害は、数百万から数千万円規模に及ぶ可能性があり、特に人材不足が深刻な業種においては致命的です。
RSOへの年間支出(例:30万円)は、こうした数百万単位の法的・事業リスクを回避するための「戦略的先行投資」であり、企業が安定した事業運営を行うための最低限の費用として位置づけるべきです。
■業種別(介護・建設・飲食)で変わる支援ニーズと費用の妥当性
特定技能制度における支援ニーズは、業種によって大きく異なります。この業種ごとの特殊性が、月額支援委託費用の変動要因の一つとなります。
例えば、介護業では、業務で必要とされる専門用語や倫理観に関する高度な日本語教育が必須となり、建設業では、現場の安全管理や専門技術習得に向けた支援が特に重要視されます。こうした専門的な支援体制を構築するには、RSO側にも業種に特化したノウハウや教材、専任担当者の配置が必要となり、結果として月額支援委託費用が相場の上限(3万円以上)になることを正当化します。
企業は、単に「安い」RSOを選ぶのではなく、自社の業種特性や外国人材のスキルレベルに合わせた高解像度の支援を提供できるか否かを、費用の妥当性判断の基準とすべきです。
各業種の特定技能要件の詳細は、
「【業種別】特定技能外国人の受入れ要件と職種ガイド」をご覧ください。
費用対効果を最大化する登録支援機関の選び方
このセクションでは、読者が最適なRSOを選定するための具体的な判断基準とチェックリストを提供します。単なるコスト削減ではなく、費用対効果を最大化する視点を持つことが重要です。
■支援委託費用は「定着率」への投資:再採用コストを回避する
RSOへの適切な費用投資は、外国人材の生活支援・職務サポートの質を高め、結果的に定着率向上に直結します。初期費用として支払う人材紹介料や在留資格申請費用(国内採用で30万円〜60万円、海外採用で27万円〜114万円)は、もし人材が早期に離職すれば無駄になってしまいます。
適切な月額支援委託費用を投資し、RSOを通じて手厚い支援を行うことは、外国人材の安心感とエンゲージメントを高め、結果として定着率の向上に直結します。定着率が高まれば、最も高額なコストである再採用コスト(人材紹介料の再発生)を回避できるため、RSO費用は長期的に見れば最も費用対効果の高い投資となります。また、支援の中には、特定技能2号へのステップアップを見据えたキャリア支援や日本語能力向上支援が含まれているかを確認することも重要です。これは、外国人材を長期的な戦力として育成し、人材の安定確保を可能にするための重要な要素です。
■失敗しない登録支援機関選定のためのチェックリスト
出入国在留管理庁はRSOが受入れ機関から受け取る支援委託費用の上限を定めていません。そのため、費用が高ければ高品質、安ければ低品質とは一概に言えず、受入れ機関は費用とサービス内容を慎重に比較検討する必要があります。以下のチェックリストは、費用対効果の高いRSOを選定するための具体的な判断基準となります。
失敗しない登録支援機関選定のためのチェックリスト
まとめ:登録支援機関 費用は「戦略的投資」が成功の鍵
■本記事で得られた3つの重要ポイント
費用のベンチマーク: 特定技能人材1人あたりの月額支援委託費の平均は28,386円(2022年データ)ですが、高品質な支援を求める場合、現在の相場はこれを上回る傾向にあります。
費用の性質: RSO費用は、複雑な法制度の「情報キャッチアップコスト」と「法令違反による事業停止リスク」を回避するための戦略的な投資であり、単純な削減対象ではありません。自社支援は間接コストと法的リスクを増大させる可能性が高いです。
選定基準: RSO選定の際は、費用の安さよりも、業種特化支援の有無、行政書士との連携体制、および契約内容の透明性を最重要視すべきです。
詳しい費用感については専門家に相談してみることをおすすめいたします。
執筆者:STAYWORKER事業部 / 益田 悠平
監修者情報:外国人採用コンサルタント / 堀込 仁志
株式会社USEN WORKINGの外国人採用コンサルタント。人材紹介・派遣の法人営業として多くの企業の採用課題に、そして飲食店経営者として現場のリアルに、長年向き合ってきた経験を持つ。採用のプロと経営者、双方の視点から生まれる具体的かつ実践的な提案を信条とし、2022年の入社以来、介護・外食分野を中心に数多くの企業の外国人採用を成功に導く。